2024 Summer

解説の”まる”さん執筆レポート【予選大会開幕直前】RAGE Shadowverse 2023 Spring

昨年のRAGEが締めくくられたと思ったのもつかの間、ひと月と時間をおかず、早速 2023 年のRAGEが始まろうとしています。
今年も数々のスター選手、名プレイが生まれることを思うと楽しみでなりません。

さて、新年最初のRAGEですが、競技者にとってはなかなか難しい環境となりそうです。
もとより多彩なデッキが姿を見せていた今環境、年始のカード能力変更によっていっそう様々なデッキに活躍のチャンスが生まれ、競技シーンは混迷を極めています。

限りある時間の中でどのようなデッキを押さえていくべきか、最低限知っておきたい強みや弱みは何か。
こうした情報について、JCG Shadowverse Open の結果を参考に、シェアの多いデッキから順に確認していきます。

EAA環境の特徴

まずはその前に、簡単に今環境の特徴を見ておきましょう。
「八獄魔境アズヴォルト」環境の特徴は大きく 2 つ。
「多彩なミッション型デッキ」と「リーサル周りの攻防の激化」です。
今環境は財宝や武装、ラストワードなど、特定のカウント達成を条件として出力を上げるデッキが多数存在します。
これを便宜上本稿では「ミッション型デッキ」と呼びます。
ミッション型デッキはカウントの達成前後で明確にパフォーマンスが変化するため、使用者は効率的なカウント達成の手順を、そして相手取る側はいかにしてカウントの進行を遅らせるかという戦略を常に意識しなくてはなりません。
これは何も今環境に始まったことではなく、「連携を稼がせないために盤面ロックする」といったテクニックはこれまでも研究されてきました。
ただ、今環境では数多くのデッキが競技シーンに参加しており、その大半が多かれ少なかれミッション型の特色を持っているため、伸ばし方・妨げ方を押さえておきたいカウントの種類がいつにも増して多くなります。
意識的な練習が必要だと言えるでしょう。

続いて「リーサル周りの攻防の激化」についてですが、こちらはOTKの減少と、各デッキの回復量の上昇によるものです。
今環境、OTKが可能なデッキは複数存在しますが、どれも相手の盤面状況に依存したり、必要な手札枚数が多かったりと、要求値がやや高めです。
ラティカエルフ等、OTKと言われて思い浮かぶような過去のデッキに比べれば安定感は落ちます。
そうなれば必然、勝ち筋を分割リーサルに託すデッキが増えてきますが、財宝ロイヤルや没頭の実験体ウィッチ等、回復に長けたデッキも前環境に比べて多くなっています。
《管弦の魔術師》採用が一般的になったスペルウィッチも、カード能力変更の結果回復力が増したデッキのひとつです。
こうした状況から、競技シーンのデッキ全般に共通して「分割リーサルを狙う場合は相手の回復も十分に加味するか、同時に盤面を作って対処の難易度を上げる」「要求値が高くともしっかりと手札を整えてOTKを目指す」など、ひと捻りしたリーサルのアプローチが必要となっています。

上記の環境特性を頭の片隅に置いていただくと、この後の各デッキの説明がよりイメージしやすくなるかもしれません。それでは今度こそ、個別のデッキを見ていきましょう。

スペルウィッチ

年始に《絶尽の崇拝者》・《大いなる意志》の能力変更を受けたスペルウィッチ。
フィニッシャーに直接手が入った形にもかかわらず、それならばと《管弦の魔術師》等別のフィニッシャーを採用し、直近の競技シーンにおいてもトップシェアを維持しています。

従来の《ウーシンマスター・クオン》を軸としたスタイルも一定の人気がありますが、疾走フォロワーに《ブレードレイン》をかけて、バーストダメージを狙いにいく構築が一般的です。
《破式の執行者・シュマエル》や《クラッシュレイン》といった新カードは疾走・バーンといった即時性のあるダメージソースでありながら、コストの踏み倒しが可能なため、1ターンで手札から出せるダメージが前環境より大幅にアップしています。

鍵となるのは「序盤の取捨選択」と「勝ち筋のアレンジ」。
ゲーム後半はスペルブーストの回転率が上がるため、ドローを進めながら、あるいは複数のスペルを刻みながら相手の盤面に対処することも難しくはありません。
しかし、PPが少なく手札も温まっていないゲーム序盤での「ながら除去」は少々ハードルが高く、マッチアップや手札状況に応じて、ドロー・除去・回復・スペルブーストなどの優先順位を的確に判断する必要があります。
見誤れば、「体力には余裕があるけど手札が伸びない」「手札枚数もスペルブーストも順調だけど体力がもたない」といった展開が待ち受けているでしょう。
選択肢が少ない序盤だからこそ、ひとつの分岐がのちに大きく影響します。
選択肢が膨大になる後半のゲームメイクに目がいきがちですが、「《叡智の神鳥》を 2 コストでプレイしたほうがいい状況は?」など序盤戦のケーススタディを煮詰めておくことも重要だと言えそうです。

続いてのポイントは「勝ち筋のアレンジ」。
先に述べた通り、基本の勝ち筋は疾走フォロワー + 《ブレードレイン》のバーストダメージとなります。
しかし、能力変更の影響で以前より 1 ターンあたりのダメージ上限は下がっており、一口にバーストダメージと言っても  OTK を目指すのか、分割リーサルを狙うのかといった検討も重要になってきています。
OTK を目指すならトップの受けやスペルブーストのスピードを、分割リーサルを狙うなら攻撃後の自身の手札の余力や相手の回復を、といった具合に気にかけるべきポイントも変わってきます。
また、疾走フォロワー以外のオプションとして《ウーシンマスター・クオン》・《真理の大文豪・ユキシマ》・《ウーラノス》など別口のダメージソースも存在するため、マッチアップごとにどのようなリーサルプランが有効なのか、予め整理しておけると、複雑な選択肢が並ぶシーンで判断を助けてくれることでしょう。

財宝ロイヤル

クラシックパックから細々と続いてきた海賊テーマですが、《出航の咎人・バルバロス》を旗手に、ついに環境の一角を担うようになりました。
財宝カードのカウントを稼ぐことで八獄カードを中心にデッキの攻撃性を引き上げ、大量のバーン + 疾走ダメージでの押し込みを狙うのが財宝ロイヤルです。
《出航の咎人・バルバロス》や《戦慄の海賊旗》が盤面に干渉できるため、多少の防御はものともせずバーストダメージを叩き出せる点が魅力ですが、序盤戦が得意なところも見逃せません。
《空絶の崇拝者》や《潮流の砲手》といった盤面の取り合いに長けたフォロワーで進化ターンまでの主導権を握ることで相手の体力を削り、リーサルの要求値を引き下げる動きは頻繁にみられ、時には序盤で築いたリードをそのままに盤面で相手の体力を削り切ってしまうような展開もあります。

そんな財宝ロイヤルですが、攻撃的なコンセプトであること、カウント 7 達成から本領発揮することから秘術ウィッチを引き合いに出されることが多く、実際共通点は少なくありません。
ただし、パフォーマンス向上のための条件は財宝(4 / 7)、連携(7 / 8 / 10 / 15)、進化(5 / 7)、とより細かくなっているため、達成までの道筋はいっそう念を入れて押さえておきたいところです。
例えばありがちなのが、 5 ターン目に《マキシマムジェネラル》をプレイした結果財宝カウントの伸びが遅れ、《戦慄の海賊旗》や《空絶の残光》の準備が整う前に相手のリーサルを許してしまうパターン。
もちろん《マキシマムジェネラル》は強力なカードですが、基本的には伸びるカウントはあくまでも「連携」です。
連携を稼ぐことで《千金武装の大参謀》等がアクティブになり、継戦能力は大きく向上しますが、一方で連携数が相手へのダメージに直結することはあまりありません。
リーサルターンの早い相手との戦いでは、財宝カウント達成の優先順位を高く見積もり、カウントの稼ぎ方にしても融合を主体としてコストカットを図るなどの立ち回りが求められます。

逆にある程度長い戦いを見込めるマッチアップでは、《没頭の実験体》ラッシュや《レーヴァテインドラゴン・ディフェンスモード》などの処理漏れこそがリスクとなるため、盤面への対応力を上げてくれる連携カウントの価値が上がります。
このように各カウントの評価は相手によって変わってくるため、マッチアップや残り体力、手札状況といった変数に対して、「どの順番でどこまでカウントを達成していくか」の自分なりの目安があると、戦いやすさが変わってくるはずです。

没頭の実験体ウィッチ

新テーマ《没頭の実験体》を軸に、息の長い戦いを得意とする没頭の実験体ウィッチは、能力変更によりスペルウィッチの評価が相対的に下がったことで起用される割合が増加しました。
このデッキの魅力は「勝ち筋の広さ」と「再現性の高さ」。
5 / 5 サイズの《没頭の実験体》による物量押しや、3 枚の《耽溺の咎人・セフィー》あるいは《バイヴカハの福音》を絡めたOTK、《干絶の甘露》による粘り勝ちなど、マッチアップに応じて様々な勝ち筋から最適なものを選ぶことができます。
条件の緩い融合を軸とするため、序盤から手札模様に寄らず似たような展開を実現しやすく、かつ《没頭の実験体》自身のドロー効果によりデッキの回転率も良好なため、今環境の中でも再現性の高さは随一。
この再現性があってこそ、勝ち筋を「選べる」という表現になるわけです。

そんな実験体ウィッチは 疾走 / 突進 / 守護 / ラストワード / ドレイン / 必殺 ……etc. と、Shadowverse における能力テキストの大半を詰め込んだ万能さが売りのデッキですが、一歩間違えれば痒いところに手が届かない器用貧乏となってしまいます。
例えばOTKを成立させるにはそれなりの準備が必要ですし、相手の守護を考慮に入れればさらにハードルは跳ね上がります。
逆に自身の体力を守るには守護の枚数はそう多くはありませんし、回復にしても、《バイヴカハの福音》の入手や《ジャーニーゴブリン》がアクティブになる 8 ターン目など、段階を踏んで回復量の上限が伸びていくので、相手の分割リーサルを耐えきれるかは慎重な判断を要します。
中でも進化時効果はターンごとに 1 回しか起動できないため、ドレインや必殺、《追憶の箱庭・オリヴィエ&シルヴィア》の全体除去等、進化が絡むアクションには注意が必要と言えるでしょう。
総じて、何をするにも「仕込み」が大切となるデッキです。
《没頭の実験体》で盤面を押し付け、相手が対処している隙に準備を進める、あるいは相手のアクションを一部割り切って強引に手札を整えにいくなど、機敏さの不足をカバーできるような立ち回りを練習しておくことが望ましいでしょう。

人形ネメシス

前シーズンから大きくデッキ基盤を変えることなく、競技環境で続投している唯一といっていいデッキが人形ネメシスです。
《幼き糸使い》のローテーション落ちなど、デッキの細部こそ姿を変えましたが、《奏絶の破壊・リーシェナ》と《エンドレスワールド・オーキス》の 2 枚看板は健在。
加えて《弾哭の執行者・キルザエル》の追加により、ゲーム後半の決定力・継戦能力がともに向上しています。
条件達成で出力を上げるデッキが多い今環境にあって、シンプルに 1 枚で性能の高いフォロワーを中心に攻撃を組み立てていく点も、特徴的かもしれません。
条件に縛られることが少ないため、序盤から素直に盤面に強いアクションを選択しやすく、フィニッシャーを引き込む時間制限も緩いと言っていいでしょう。

こうしたミッドレンジ色の強いデッキで意識したいポイントは攻守のメリハリです。
攻撃のピークターンが中盤にあり、極端なバーストダメージは有していない性質上、ゲーム後半まで息も絶え絶えに押し込み続けたところで、綺麗にいなされてしまうリスクが存在します。
そのため、ゲーム前半は全力で攻め、中盤までに大勢を決せられるほどでなければ、再度攻め込むための手札を整えたり、あるいは防御的な立ち回りで逆に相手の息切れを狙うといったプランも視野に入れておくことが望ましいでしょう。
幸いにして今環境の人形ネメシスには、従来の《奏絶の破壊・リーシェナ》に加え《三相の女神・バイヴカハ》・《弾哭の執行者・キルザエル》も、攻めと守り両面での活躍を期待できるカードとして起用されています。
計画的に手札を管理すれば 1 ターンで 2 桁の体力を回復することも可能な一方で、それらのカードを中途半端に攻撃に回していては、堅実な守りは実現できません。
逆もまた然りで、必要以上に体力のマージンを取ったり、細かく盤面除去する戦い方に寄りすぎれば、攻め手を欠く展開に襲われます。
このように「あちらを立てばこちらが立たぬ」を地で行くデッキのため、その力を遺憾なく発揮するには攻守の切替へのアンテナが必要です。
「守勢に回ったとして受けきれる相手なのか」「守るプランも通るならば、その判断はいつ頃固めるべきか」といった、相手デッキの理解を前提としたゲームメイクを習得できるかどうかが鍵と言えそうです。

ディスカードドラゴン

《火炎の竜闘士》・《オーブキャンサー》がローテーション落ちしたディスカードドラゴンは前環境に比べて、純粋なデッキパワーで言えば落ちていると見ることができます。
しかしながら、《黒白の乱舞・ノール&ブラン》のガードの堅さは衰えを見せず、むしろ生半可な守護がスペルウィッチや財宝ロイヤルに突破されていく今環境にあって、その守りの強固さから独自の立ち位置を確立しています。
同じく破壊耐性のある《禁牙の執行者・ドラズエル》は強力な除去・回復効果も有するため、回復と守護で相手のリーサルをかわしながら、盤面の押し付けとバーンダメージの組み合わせで勝利を目指すコントロール色の強いデッキに変化したと言えるでしょう。

このデッキの気難しいところはそのダメージソース・リソースのちぐはぐさにあります。
まずはダメージソース。仮に「コントロール」という目線で見るのであれば、十分すぎるほどに打点がありますが、《アルティメットバハムート》等ゲームを引き延ばした先の勝ち筋は採用例が少なく、息切れを望めない相手にはしっかりとダメージを通して勝ちきる必要があります。
となった際に、手札を捨てる効果を有するカードが前環境に比べて減ってしまったことは大きな痛手です。
《金色の威信・リュミオール》関連のダメージソースが減少しているため、中途半端な攻勢を仕掛けて回復されようものなら、逆に自身がデッキ切れの恐怖に見舞われることでしょう。

次にリソース。
手札を捨てるカードが減少したことでデッキの回転率が落ちたことはもちろん、序中盤の《銀色の清純・アルジャンテ》プレイ時、ドロー効果を働かせることが難しくなりました。
そのため防御的に立ち回るにはいささか心細い手札の枚数で進行するゲームが増えたとともに、《剛爪の看守》等で手札の補充に動く「息継ぎ」のターンには攻め手が止まります。
前述の通り打点が限られているがゆえに攻め込むときは一気に押してしまいたいこのデッキにとって、手札の不足で足が止まることの影響は大きく、PP最大値や手札の下準備から攻撃に切り替えるタイミングの見極めが重要なポイントとなりそうです。

武装ドラゴン

「《レーヴァテインドラゴン》は弱い」と揶揄されたのも今や昔の話。
新形態ブラストモードと新たな武装フォロワーを携え、環境に躍り出たのが武装ドラゴンです。
その強みはなんといっても、条件達成の早さと達成後の攻撃力。
もともとの武装フォロワーがおしなべて《ドラゴウェポン》を手札に加えてくれるため、武装フォロワーの 4 カウントは 5 ターン目開始時に達成されていることがままあります。
そしてひとたびカウントを達成してしまえば、大半の武装フォロワーがダメージソースになるため、波状攻撃で素早く相手の体力を削りきることに長けています。
極めて攻撃的なコンセプトでありながら、《レーヴァテインドラゴン》の進化先のチョイスによって、アタックモードによる盤面処理やディフェンスモードによる盤面勝ちプランなど、ある程度柔軟な立ち回りができることも魅力のひとつです。

序盤から強力なアクションが揃い踏みのデッキですが、「バーストダメージ」「ドローソース」の 2 ピースが少し弱いという難点には、きちんと向き合わなくてはなりません。
ダメージソースの主力はやはり《レーヴァテインドラゴン・ブラストモード》で、3 コスト 7 点と破格の性能です。
しかし他の打点となると、大半は武装フォロワー群の 3 点を頼りにすることになります。
4 カウント達成のために序盤である程度武装フォロワーをプレイしていることも踏まえると、《レーヴァテインドラゴン》と合わせる武装フォロワーを多数抱えることは非常にハードルが高いと言えるでしょう。
そのため、武装ドラゴンの勝ち筋は序盤の削りと後半の分割リーサルによって構成されることが多く、回復に長けたデッキとの戦いでは体力を戻されて苦戦するケースも見られます。
大規模なバーストダメージには届かずとも、相手の回復力を正確に把握し、それを上回るペースでの分割リーサルを仕掛けるなど、詰めの丁寧さが問われるデッキです。

上記のようなバーストダメージの実現を困難にしている一因としても、ドローソースの少なさが挙がりますが、ドローが乏しいことの一番の問題は《レーヴァテインドラゴン》へのアクセスにあるでしょう。
全体的に軽量フォロワーでまとめている武装ドラゴンのデッキにあって、1 枚で重いダメージを出したり、盤面に大きな影響を与えられるこのカードはそのテキスト以上に大きな貢献をしてくれます。
低コストのフォロワーだけではダメージが足りない、盤面を取り切れないといった事態に陥ることもあるため、《レーヴァテインドラゴン》への依存度が高いと言い換えてもいいかもしれません。
「ドローが少ないから高コストのカードが欲しい」と「ドローが少ないから高コストのカードが引けない」は攻撃的なデッキを古くからセットで悩ませてきた課題です。
ある程度息の長いゲームを土俵とするデッキも少なくない今環境、《レーヴァテインドラゴン》一点狙いの手札交換や、回復・守護の割り切り等「思い切り」がキーワードになってくる場面も多そうです。

ラストワードネクロマンサー

幾度となくリバイバルを重ねてきたラストワードネクロマンサー。
今環境では《勅令の咎人・イステンデッド》ら八獄フォロワーを中心に、バーストダメージに長けたデッキとして登場しています。ラストワードカウントの達成によってできることの違いが明確で、5 カウント達成で盤面処理・形成上のアドバンテージ、10 カウント達成で疾走打点の獲得へと進みます。
ゲーム後半には《死竜の暴食》を含め、少ないカード枚数でバーストダメージを捻出できる組み合わせを保有し、さらに基本的には相手の守護もこじ開けながらその打点を通すことができるため、安定したダメージを期待できることが強みと言えるでしょう。
フィニッシャーの一角を担う《深淵の大佐》は防御的な役割も兼ねており、噛み合い次第では、財宝ロイヤルやスペルウィッチの疾走フォロワーに二の足を踏ませることができる点にも注目です。

派手な盤面制圧とバーストダメージを得意とするデッキではありますが、一方でバーストダメージをOTK規模まで引き上げるには、なかなかに骨が折れます。
打点を小出しにして回復されると厳しいという今環境多くのデッキに共通する課題は、ラストワードネクロマンサーもその例に漏れません。
《冥焔の獄犬・ケルベロス》等比較的手札消費の激しいデッキのため、《深淵の大佐》をはじめとするダメージソースをある程度手元に揃える前に攻撃を始めてしまうと、「あと一歩まで追い詰めたけど削り切れず、手札はカツカツ」といったことになりかねません。こういった事態を避けるために意識したいのは、ドローソースの使い方です。
積極的にドローを進めるべきというのは当然のことですが、このデッキの主なドローソースは《アズヴォルト》《霊魂の統率》《フギン&ムニン》といったラインナップ。このうち前者 2 種類はタイミングによっては、盤面争いで後手に回る可能性のあるカードです。
《フギン&ムニン》にしても、相手の盤面形成を見てから後出しで当てにいく方が盤面効率がいいことは言うまでもありません。
進化ネクロマンサーの名残で「むしろ自分から盤面を空ける動きが強い」と考えたくもなりますが、不用意に盤面のリードを許してしまえば、《勅令の咎人・イステンデッド》での対処を余儀なくされます。
となると、セットでなければ使いづらい《深淵の大佐》も引きずりだされやすく……となし崩し的に「ダメージソースをある程度手元に揃える前に攻撃を始めてしまう」状況に追い込まれてしまいます。
フィニッシャー群がある程度防御的な役割も担っているデッキだからこそ、安易に守りの面で彼らを頼ることなく盤面で渡り合うテクニックを意識したいデッキだと言えるでしょう。

ホズミコンボエルフ

《絶尽の崇拝者》がお咎めを食らった中、クロスオーバーからの刺客としていまだ健在なのがホズミコンボエルフです。
ゲーム中盤にかけて《化かし女将・ホズミ》による大量展開を実現し、《コスモスファング》の大量バウンスと《香風の執行者・ウィムエル》のコンボにより、ダメージレースを巻き戻しながら盤面優位を固定化する戦術が非常に強力となっています。
一発で盤面・体力の状況が大幅に変化するため、使用者にとっては「取り返しがつく」範囲が広いデッキであり、《香風の執行者・ウィムエル》の除去は並大抵ではないため、直撃を受ける者にとっては「取り返しがつかない」コンボが脅威となるデッキです。
《化かし女将・ホズミ》で場に出すフォロワーのうち、《コスモスファング》・《香風の執行者・ウィムエル》を除く 2 種類についてはまだ研究の途上ということもありますが、環境に応じて調整していくことでデッキの対応力を引きあげてくれる選択枠と言うことができるでしょう。

これまで見てきた中では比較的シェアの低いデッキですが、敬遠される理由として考えられるのは「コンボのハードル」と「決定力の不足」でしょうか。
ここでいう「コンボのハードル」とは、コンボを決める難しさを指すわけではありません。
《化かし女将・ホズミ》のコンボを決めるにあたって中核的な働きをするのは《セラフィックレオ・ガルエル》で、コストを踏み倒したニュートラルフォロワーを組み合わせることで、プレイ数条件を達成していきます。
4 プレイ達成するためのコンボ自体はある程度限られた動きになるため、極論丸暗記してしまえば問題ありません。
ただしこれは裏を返せば、「特定のカードはコンボにいくとき以外切ってはいけない」ということになります。
特にゲーム序盤では、コンボパーツを探しにドロースペルを打つ展開も多い中、盤面対処用に許されるフォロワーの枚数は非常に心許ないと言えるでしょう。
そのため課題としての「コンボのハードル」とは、コンボ達成までのしのぎ方、あるいは中々コンボパーツが集まらない際のカバーがシビアなことを意味します。
1 枚のトップでコンボが完成し、一気に展開をひっくり返せることもあるため、トップ受けを残すことは常に意識したいですが、コンボ完成前に押し切られてしまっては本末転倒。
「どのカードを何枚まで」なら、目先の盤面対処のために吐き出すことが許されるのかを見極めるのは、至難の業かもしれません。

もう 1 点の「決定力の不足」ですが、これはほかならぬ《香風の執行者・ウィムエル》に起因するものです。
《香風の執行者・ウィムエル》はひとたび場に出てしまえばひたすらに居座り続けるフォロワーです。当然相手に対して大きなプレッシャーとなりますが、一方で

盤面ロックの温床ともなります。
コンボに集約しているデッキのため、フィニッシャー級のスペルやフォロワーの採用は難しく、守護で《香風の執行者・ウィムエル》を止められてしまうと、狭い盤面での戦いを強いられることになります。
《コスモスファング》さえ処理されなければ体力は継続して回復できるため、必ずしもコンボを決めた次のターンにリーサルを取る必要はありませんが、マッチアップによってはコンボを決めたのに盤面ロックで 1 ~ 2 ターン凌がれたのちOTK……といった憂き目を見ることもあるでしょう。
コンボ達成後、リーサルまでにかけられる時間の整理と、特に急ぎ決着をつける必要がある際の攻撃手段。これら 2 点をクリアできれば、その展開力はいっそうの脅威をもって環境に牙をむくことでしょう。

正しく「魔境」、抜き出でるのは誰か

ここまで実に 8 のデッキを駆け足で確認してきましたが、あくまでシェアの多いものを取りあげたにすぎず、今環境競技シーンで対戦しうるデッキという意味ではこれでも足りません。
個性豊かなデッキたちが群雄割拠する「八獄魔境アズヴォルト」環境はまさに「魔境」と呼ぶにふさわしい複雑さです。
デッキごとで扱いに求められるテクニックが異なり、ゲームの作り方も千差万別ですので、単純なデッキの強度にこだわらず、自らのプレイスタイルと相性がいいものを突き詰めるようなデッキ選択を考えてみるのもいいかもしれません。

下図は先に紹介した 8 つのデッキを、その特徴に従いマッピングしたものになります。
あくまで主観に基づくものですが、プレイスタイルからデッキを検討したい場合、ひとつの参考にしてください。各アイコンの大きさは能力変更以降のJCGにおけるシェアに比例するものです。

横軸「ミッション」は様々なカウントを達成し、段階を踏んでデッキ全体が強化されていく度合。
「コンボ」は組み合わせによって、手札の出力を瞬間的に大きく引き上げる度合を意味しています。
ミッション傾向のデッキはカウントという指標があるため、ひとまずのプレイ指針をたてやすく、また一度条件を満たせば対象のカードは常に強化された状態のため、キーカードの遅れに対しては比較的寛容なことが特徴です。
これらのことから、序中盤の動き方をイメージしやすく、手を付けやすいデッキと言えるでしょう。
一方でコンボ傾向のデッキほどの爆発力はないため、OTKの要求値はそれなりに高く、分割リーサルを狙う場合には、守護や回復を織り込んだダメージ計算が重要となります。
詰めの段階で繊細な読みや大胆な割り切りを求められやすいデッキです。
対して、コンボ傾向のデッキはコンボ成立時の勢いがすさまじく、守護や回復を意に介さないリーサルが取れたり、1 ターンで大勢を決してしまうことができます。
このように、終盤の決定力が魅力と言えるでしょう。ただし必要なパーツは耳を揃えて手札に置かなくてはならないため、キーカードの引き遅れや、ドローと盤面対処のトレードオフに頭を悩まされるデッキでもあります。
手札交換を含め、序中盤の研究しがいがあるデッキタイプです。

縦軸はカウントや手札等デッキに課された条件を達成したのち、勝ちきるまでにかける、あるいはかけられる時間の傾向を示すものです。
「継戦」に寄れば、コンボやカウントの達成後、その対応力を武器に数ターンの時間を稼ぎながらリーサルの準備を整える傾向に。
「集約」に寄れば、ひとたび手札・カウントが満たされたならば一気呵成に攻め込み、短時間での決着を目指す傾向にあるということになります。
今環境、いずれのデッキタイプもはっきりコントロールと言い切ることは難しいですが、相手のアクションを見てから「後の先」でアドバンテージを取ることが得意であれば、継戦色の強いデッキは肌に合うかもしれません。
逆に先んじて相手にできることを見切り、その範囲外を攻めることで主導権を握って離さないプレイに自信のある方は、集約色のデッキが馴染む可能性があります。

こうしてマッピングしてみても、その散らばりようから、デッキ系統の多様さが伺い知れます。
ましてカード能力変更から間もない電撃戦とあって、1 次予選から激戦は必至。
1 月 14 日(土)、2023年の戦いの幕が上がります。
残り僅かな時間ですが、参加者の皆様が悔いのないデッキ選択、練習ができることを願っています。

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