最強チーム決定戦

解説の”まる”さん執筆レポート【GRAND FINALS直前】RAGE Shadowverse 2022 Winter

2022年のRAGEもいよいよ締めくくりを迎えようとしています。
今年はオフライン・オンラインそれぞれのスタイルで回を重ねてきましたが、いずれの形でも頂点を競うGRAND FINALSという舞台の熱量は想像を超えるようなものでした。

そんなGRAND FINALSですが、競技という観点では、これまでと少し毛色が異なるようです。
今年のアディショナル環境が全体的に、アディショナルカード実装前の主力デッキと新デッキが共存する「地続き」の環境だったのに対して、今環境では上位デッキががらりと入れ替わりました。
その一端が垣間見えるのがRAGE Shadowverse Pro Tour 22-23(以下RSPT) 5th Season 本戦出場選手たちのデッキ選択。

アディショナル前に環境を支配していた威光ロイヤルが姿を消したことはもちろん、人形ネメシスも大きく数を減らし、アディショナルカードを活用したデッキ群が雪崩れ込んでいる様子がうかがえます。
クラスアイコンだけでは判断できませんが、デッキの内容としてもウィッチは秘術ウィッチ、ビショップは結晶ビショップ一本と、もともと活躍していたスペルウィッチや回復ビショップは影も見当たりません。

なぜ今回のGRAND FINALSに向けては、これほど大きく環境が動いたのでしょう。
今回のレポートでは、アディショナルカード登場以降に爆発的な広がりを見せたデッキたちを紹介しながら、環境変化の鍵を紐解いていきます。
それではさっそくデッキから見ていきましょう。

ディスカードドラゴン

RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR 22-23 5th Season 準優勝 横浜F・マリノス所属 kaoru選手のディスカードドラゴン

アディショナルカード《金色の威信・リュミオール》を軸に据え、手札を入れ替えながらバーンダメージで相手を圧倒するコンボデッキです。アディショナル以降の環境激変の主役と言えるでしょう。その主な特徴は次のとおりです。

バーンと盤面、2つの勝ち筋

《金色の威信・リュミオール》を起点としたバーンダメージは、10PPからであれば、1ターンあたり10〜14点ほどを捻出することができます。
一発で相手の体力を根こそぎ奪い去るとまではいきませんが、2枚目の《金色の威信・リュミオール》まで耐え切ることは至難の業。
加えて効果によって盤面も焼け野原となるため、相手は手札だけで盤面処理と回復を素早くこなさなくてはなりません。
そのため、後続の《金色の威信・リュミオール》にたどり着けていない場合、《黒白の乱舞・ノール&ブラン》を横に並べて相手の処理能力を超える展開を目指す勝ち方も十分に現実的と言えます
手札のみを拠り所とせざるをえない相手に対して、《ブリザードハート・フィルレイン》も効果的な1枚となりえますので、盤面勝ちを狙う際には積極的に横に添えていきたいところです。

苦手なマッチアップでも突破口が明確

ディスカードドラゴンが苦手とするのは主に秘術ウィッチや人形ネメシスといった攻撃性の高いデッキ。
序盤からどんどん体力を削られてしまえば、盤面を放置してのPPブーストやディスカードは困難になります。
よしんば《金色の威信・リュミオール》までたどり着けたとしても、1枚ですぐさま勝てるカードではないため、返しのターンでリーサル……といった展開はそう珍しいものでもないでしょう。
ただし、これだけ負け筋が明確なところに、回復・除去といった対抗手段を持ち合わせているのがこのデッキ。
特に両者をこなしながらPPブーストの手を緩めない《独尊龍・スーロン》は、マッチアップによってはその価値が跳ねあがります。
もとより手札の回転率が高いデッキゆえにいつまでも欲しいカードにアクセスできないことは稀なため、ゲーム後半は《ブリザードハート・フィルレイン》が手数の多い相手デッキの足を縫い止めてくれると期待して、前半戦は効率のいいダメージカットに注力することも可能です。
当然他のマッチアップに比べて求められるカードの枚数やタイミングといった点でシビアになることは間違いありませんが、比較的再現性の高い処方箋がある以上、BO3やBO5での選出を躊躇う理由が少ないというのはこのデッキの魅力のひとつと言えるでしょう。

このように勝ち筋の汎用性が高く、欠点に対しては多少なりカバーする策を講じていけるため、アディショナルカードの実装以降、ディスカードドラゴンはまたたく間に環境トップシェアとなりました。
デッキの地力が非常に高く、反射的ないわゆる「手なり」プレイをしても、勝ちきれることがままありますが、そのギミックゆえ常に大量の選択肢が並びます。
「どの手札を捨てるのか」はもちろん、「PPブーストとディスカードのどちらを優先するか」「ターン中のトップ受けを最大化するにはどの順番でディスカードすべきか」など、臨機応変な対応を求められるテーマがめじろ押しです
おそらくGRAND FINALSでもお目にかかるであろうこのデッキ、ファイナリストたちのひとつひとつの選択から目が離せません。

秘術ウィッチ

RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR 22-23 5th Season 3位タイ GxG所属 たばた選手の秘術ウィッチ

《スペリオルコントラクター》登場以降、長きにわたり活躍してきた秘術ウィッチ。
いよいよ彼女のローテーション落ちが目前に迫ったこのタイミングで追加された《アストロジカルソーサラー》は、まさにデッキが求めていた「最後の1ピース」でした。

《アストロジカルソーサラー》がハマるのはなぜか

《星見の望遠鏡》によるドロー・スタック消費の加速は手札交換時、強力無比なフィニッシャー《スペリオルコントラクター》のキープ許容度を引き上げてくれ、かつ序中盤の安定に貢献してくれます。
また、本体のデバフ効果も見逃せません。
バーンダメージに富んだこのデッキでは、事前に手札を整えておきさえすれば、盤面を取られ、強力な守護が立とうとも、バーンダメージによるリーサルを狙うことができます。
盤面を押さえられても打点を伸ばせるこうしたデッキ特性があればこそ、相手のリーサルを1ターン先延ばしにできることの価値は計り知れません。

《アストロジカルソーサラー》の投入により「早期リーサルを狙いつつ、打点を溜め込んで終盤にバーストダメージを叩き込む勝ち筋も存在する」等、既存の長所はいっそうの安定感を手に入れた一方で、リソースをはじめとした継戦能力の向上により「回復に長けたデッキを押し切ることが難しい」といった短所が軽減されています。
デッキとしての方向性はそのままに、純粋に強度が上がったような格好です。
今環境でいえばコントロールエルフが苦手なマッチアップに挙がりますが、相手の回復量を上回るべく打点を小出しにしながらも手札が尽きない様子は、RSPT 5th Season 本戦決勝戦の最終バトルでも見てとれました。

 

1年間磨かれ続けたデッキの集大成

ここしばらくの秘術ウィッチは、環境に姿を見せる頻度こそ高かれど、大きなシェアを得るほどには日の目を浴びてきませんでした。
アディショナルカードによるデッキの強化に加え、台頭してきたディスカードドラゴンに対して素早い攻め手が有効なことも追い風となって、ついに環境トップに名乗りを上げた形となります。
デッキの基盤は複数環境にわたって慣れ親しまれてきたもののため、以前からの積み重ねがものを言うデッキと言えるでしょう。
スタックの生成・消費の計画やスピード、打点は温存するのか小出しにするのかなど、ターンごとの緩急のバランス感覚が問われる秘術ウィッチ。
GRAND FINALSでそのポテンシャルを引き出しきるのはいったいどのプレイヤーになるのか、注目しましょう。

コントロールエルフ

RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR 22-23 5th Season 優勝 福岡ソフトバンクホークスゲーミング所属 ヘイム選手のコントロールエルフ

これまでもデッキとして存在はしていたものの、秘術ウィッチ以上に肩身が狭かった。
そんなコントロールエルフが《ベネディクションエルフ》を携え、一気にシェアを拡大しています。

全体除去「+ α」の進展

従来のコントロールエルフに中々活躍の機会がなかったのは、主に2つの要因によるものです。

まずひとつに、全体除去が不器用だった点が挙げられます
《凍土の女王・ピアシィ》は優秀な全体除去カードですが、本来ほしい守護や回復といった効果はなく相手リーダーへのダメージが付随する、コントロールというコンセプトとのミスマッチが目立つ1枚でもありました。
もともと回復ビショップほどの安定した回復力がなかったところに、今環境から《ヒーリングフェアリー》がローテーション落ちしている影響で分割リーサルへの耐性が低下していたこともあり、アディショナルカード追加前には競技シーンに参入できるスペックを持っていなかったのが実情です。
しかし、アディショナルカードとして《ベネディクションエルフ》《箱庭の追憶・オリヴィエ&シルヴィア》が登場したことで状況は一変します。
両者ともに全体除去を担いつつ、回復や守護といったゲームスピードを緩やかにする役割を期待できる能力をしており、明確に耐久力が向上しました。

OTKへの対抗策

コントロールエルフ流行の壁となっていたもう一つの要素は、OTK耐性のなさにあります。
以前はEPの回復を《凍土の女王・ピアシィ》に依存しており、《ジャイアントハッピーピッグ》を進化させる余裕がほとんどありませんでした。
そのため体力上限を引き上げることができず、コンボデッキのOTKを前に敗れ去る展開を避けがたく、競技環境での使用が敬遠される傾向にありました。
この課題についても、先の2枚が見事解決してくれました。
自身が体力上限と即時の体力回復の効果を持つ《ベネディクションエルフ》はもちろん、《箱庭の追憶・オリヴィエ&シルヴィア》も複数EPを回復できることで、本体に進化を切ったうえでなお、次ターン以降の《ジャイアントハッピーピッグ》に向けてEPを保持できる点で、体力上限アップの影の立役者といえるでしょう。

総じて、これまで《凍土の女王・ピアシィ》に集中していた負荷が新カードに分散し、余裕をもって防御的なアクションを連続できるようになったことで、分割リーサル・OTKそれぞれへの対応力が向上し、競技環境に耐えうるデッキとして姿を現した形となります。
これだけ聞くとさも万能なデッキのようにも思えますが、まとまった体力回復にはそれなりのPPやEPが必要となるため、自身の体力管理が非常に重要となります
限られたリソースの中で必要十分な回復を行いながら、盤面を守っていくためには、「何ターン目にどの程度の打点が出るのか」「どのような守護の並べ方・タイミングがダメージカットの効率において優れているか」など相手のデッキへの深い理解に基づく無駄のない手札・PP活用が必要です。GRAND FINALSで登場する場合、漫然と使うことを許さない気難しいデッキとして、使い手の練習量・集中力が問われることでしょう。

環境変化の背景

さて、ここまで見てきた新デッキ(あるいは環境外から舞い戻ってきたデッキ)たちですが、ある共通点を持っています。
それは「頑健な勝ち筋」と「苦手の克服」です。
多少の誤解を恐れず噛み砕くなら「有利マッチを取りこぼさない力」と「不利マッチでワンチャンスを作る力」との言い換えが近いかもしれません

ここで言う頑健とは勝ち筋への対策、いわゆる「メタ」を講じられたとしても、ほかの勝ち筋に切り替えたり時間を稼ぐなどしてやり過ごし、形勢逆転を許さないようなデッキの構造を指します。
当初から盤面・分割・バーストいずれのプランも構えていた秘術ウィッチはもとより、ディスカードドラゴンも《ウーラノス》 や《キャプテン・ドラグウッド》 等《金色の威信・リュミオール》がなくとも打点を押し込むことができます。
コントロールエルフはそもそも相手の攻勢を無力化することが勝ち筋と言えるので初めからアプローチも広いですが、《アルティメットバハムート》の着地タイミングをコントロールできることに加え、《ブロッサムルナール》や《紅葉のリーフマン》による盤面勝ちを狙えるなど、簡単に動きを止められるデッキではありません。

また、カードゲームの常としていずれのデッキも何かしらの弱点を抱えていますが、上記で見てきた通り新デッキたちは部分的にせよ、そうした弱点への回答を手にしています。
一方で、アディショナルカード登場前に活躍していたデッキの多くは逆に、新たに登場したデッキたちに弱点を突かれる立場となり、かつその弱点のカバーが現状追いついていないと言えるでしょう。

威光ロイヤルを例に詳しく見ていきます。
威光ロイヤルは分割リーサル・OTKどちらのプランも狙っていける強力なコンボデッキですが、対応力の増したコントロールエルフに対しては盤面の優位を維持することが難しく、また数々の疾走も豊富な守護に行く手を阻まれ、細かい打点の蓄積は望みづらいと言えるでしょう。
体力上限アップに関しては一見、バフ山盛りの《神速のクイックブレーダー》で攻略可能なように思えますが、《天使の加護》が守護のくびきから逃がしてくれるのはただ1体のフォロワーのみ。
20点を超えるバーストを目指すには《黄金の首飾り》や《バイヴカハの福音》といったトークンカードの準備が必須で、手札・コストの両面で極めて高い要求値をクリアしなくてはなりません。
そうこうしているうちに《アルティメットバハムート》の直接召喚が間に合ってしまうため、現状高い再現性でコントロールエルフを下すことができる構築・プレイは、少なくとも普及はしていないと言えるでしょう。
これが「苦手を克服できていない」状況です。

逆に主に勝ちに行きたい対ディスカードドラゴンの《ブリザードハート・フィルレイン》や、有利・不利様々な意見がある対秘術ウィッチの《アストロジカルソーサラー》には1枚で《神速のクイックブレーダー》を中心とする疾走コンボを止められてしまい、《神速のクイックブレーダー》抜きで十分なダメージを捻出するのは並大抵のことではありません。
以前は《千金武装の大参謀》を絡めた盤面形成で繋ぐことが可能でしたが、ディスカードドラゴン・秘術ウィッチともに盤面を捌きながらリーダーへのダメージも通せるデッキのため、《神速のクイックブレーダー》が1ターン動けなくなることの影響は大きくなっており、勝ち筋の首ねっこを掴まれていると言えます。これが「勝ち筋の頑健性を欠いている」状況です。

威光ロイヤルに比べると、結晶ビショップや人形ネメシスは「苦手の克服」には至っていないものの、特定マッチアップにおける「頑健な勝ち筋」を持っているため、母数を減らしつつも一定の勢力を維持しています。
例えば結晶ビショップであれば対コントロールエルフでの破壊+大規模盤面形成はエルフ側に止める手立てがなく、迂闊な《アルティメットバハムート》直接召喚も《ウーラノス》の餌食となります。
人形ネメシスも主要デッキの中に《新約・黒の章》の継続ダメージを効果的に防ぐ方法が存在せず、いざとなれば《時空の掌握者》の波状攻撃に頼ることも可能なため、一朝一夕に対策することはできません。

このように既存デッキへの風当たりが強い環境ではありますが、それはここまで見てきた通りデッキパワーの見劣りによるものというよりは、一部の課題が燻っているからと捉えられます。
裏を返せば、構築やプレイ指針で各デッキが抱える課題を解消するようなブレイクスルーがあれば、すぐにでも一線に舞い戻る可能性のあるデッキが多数存在しているのが現在の環境と言えるでしょう。
ファイナリストたちの鋭いアイデアによって既存デッキたちがあっと驚く活躍を見せてくれる展開にも期待したいところです。

今年最後の激闘を

「Celestial Dragon Blade / 天示す竜剣」。
このカードパックでいかに大きな環境変化が起きたのか、少しでもお伝えすることができたでしょうか。
アディショナルカード以降はほとんど新カードパックと言ってもいいほどの激変であり、ファイナリストたちにとっては厳しい戦いが予想されます。
一方、トップシェアに限らず、構築・プレイの両面で追及し甲斐のあるデッキばかりの環境でもありますので、この環境を昇り詰めたプレイヤーたちのデッキ選択、プレイには否応なく期待が高まります。

12月25日(日) 12時から、ついに今年最後の戦いが始まります。GRAND FINALSの模様は同時刻より余すことなく配信しますので、是非共に結末を見届けてください。

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