2024 Summer

解説の”まる”さん執筆レポート【GRAND FINALS直前】RAGE Shadowverse 2023 Spring

過去の環境と比べても、屈指の難しい環境として受け止められてきた「八獄魔境アズヴォルト」。
アディショナルカードの追加以降、その環境にも少なからず変化が訪れましたが、何とこれまで、いわゆる公式な競技大会の配信はありませんでした。
新カードパックの足音も間近に聞こえる時期となりましたが、このままこの環境を終えてしまうのはもったいないというものでしょう。

来たる GRAND FINALS はいわばアディショナル後環境の最初で最後の晴れ舞台となりそうです。
この限られた機会を最大限楽しむために、当日の活躍が予想されるデッキや、アディショナルカードリリースによる環境の変化など、このタイミングで確認しておきましょう。

狂乱ヴァンパイア

《愛絶の姦淫・ヴァーナレク》の能力変更に加え、新カード《虚飾の炎熱》の追加。
これらの力強い追い風を受けて、「八獄魔境アズヴォルト」アディショナル環境を駆け上がったのが狂乱ヴァンパイアです。

JCG Shadowverse Open等、競技シーンでのシェアも目覚ましく、GRAND FINALSを前に、そのスペックを整理しておく必要があるでしょう。

長所
  • ダメージソースを増やすことができる
  • 盤面制圧とダメージプッシュの両立を狙える
短所
  • OTKは安定しない

エッセンスだけ箇条書きにしてみれば大変シンプルですが、戦いの組み立てにおいて考えることの多いデッキです。
今回は説明の都合上、先に弱点から確認しておきましょう。
このデッキは 2~3ターンにかかる分割リーサルや、盤面のフォロワーが残ることをあてにした打点計算を勝ち筋の主軸としており、手札からまとめて 20 点を出すような戦い方はそこまで得意ではありません。
《羅刹の咎人・ガロダート》2枚同時疾走など、OTK可能なパターンをはじめから捨てて挑む必要はありませんが、他のデッキのOTKに比べて特別達成が早いわけでもなく、必要なパーツの多さから再現性にも少々難があるとなれば、別ルートでのリーサルを狙うのが自然というものです。
そして分割リーサルを目指す以上、相手の回復に注意が必要なことはもちろん、自傷効果を伴うこのデッキでは、相手のターンに逆にリーサルを取られないための体力管理も課題となることがあります。

これだけ見るとOTKにも分割リーサルにも課題を抱え、痛し痒しといったところですが、それでもなおこのデッキが環境トップに食い込んでいるのは、上記の弱点を自らの長所でカバーすることができるからです。
まずはダメージソースについて。
分割リーサルに回復の懸念が付きまとうのは、それによって打点不足に陥る可能性が高ければこそです。
このデッキの特にダメージ効率の高いカードは《羅刹の咎人・ガロダート》《愛絶の姦淫・ヴァーナレク》《紅き血の女王・ヴァンピィ》の 3本柱で、枚数にすれば 9枚が初期値。
ところが《愛絶の姦淫・ヴァーナレク》が1度倒れれば 15枚、2度倒れたなら 21枚 と爆発的にダメージソースが増加します。
そのため、早期に処理してもらうほど、ゲーム後半の打点が伸びるデッキ構造となっているのが特徴的です。
他のデッキであれば不用意な「削り」を回復されてしまい、ダメージソース枯渇にあえぐリスクを恐れて攻め込めないところを、狂乱ヴァンパイアはむしろ「一時的に手札の打点を手放しても、結果として未来の打点が増える」として積極的に《愛絶の姦淫・ヴァーナレク》をプレイすることができます。
体力を詰める機会が多いということは、それだけ分割リーサルの隙をうかがいやすいということ。
とりあえずつついてみて、回復が甘ければ一気に攻め込み、綺麗にさばかれたとしてもゲーム後半のアドバンテージに繋げるという二段構えの攻撃が可能なスタイルは分割リーサルとの相性が高く、このデッキの強力な武器と言えるでしょう。

また、主に中盤のゲームメイクにおいても独自の強みが光ります。
それが盤面制圧とダメージプッシュの両立です。
《ハウリングデーモン》や《紅き血の女王・ヴァンピィ》、加えて《愛絶の飛翔》といった豊富な多面除去カードはただ相手の盤面を焼き払うにとどまらず、しっかりと相手リーダーにダメージを与えることができます。
《憤激の副総長》も単体で相手リーダーへのダメージまでは捻出できませんが、《猛襲の特攻隊長》などとの組み合わせによって中盤を優位に運ぶことが可能です。
このように、中盤で盤面を取り合っていると自然に相手の体力が削れていくため、盤面を取るアクションをそのまま分割リーサルの初動のように扱い、次のターンで詰めきるといったプランに移行することができます。
上記の「ダメージソースを増やせる」長所と相まって、分割リーサルの「入口」をとにかく豊富に作れるというのがこのデッキの強さの秘密であり、OTKルートが細くても第一線で戦っていける出力の地盤なのかもしれません。

ここまでの流れでお分かりかもしれませんが、やはりGRAND FINALSでご注目いただきたいのは各選手のリーサルデザインです。
先に「《愛絶の姦淫・ヴァーナレク》を処理させてゲーム後半の打点を増やす」ようなプランについて触れましたが、もちろん手札で十分なダメージが見込める場合、ドローという不確定要素に託さず、《愛絶の姦淫・ヴァーナレク》をそのまま抱える選択もあり得ます。
また、《フラウロス》を含め序盤の盤面形成からアグロめいた動きで素早く押し切る展開も考えられます。
様々な可能性の中から、より勝算の高い勝ち筋を思い描く力が試されるデッキとして捉えると、観戦の楽しみも増すのではないでしょうか。

八獄ネメシス

タイプ「すべて」の3文字でプレイヤーたちに衝撃を与えた新カード《万物の目撃者・ジュディス》は《機鋒の咎人・カットスロート》の能力発動条件を阻害しないとして、3枚フル投入によって八獄ネメシスの大躍進を助けました。

こちらも本格的に台頭したのはアディショナルカード登場以降ということで、簡単にその特徴を見ておきましょう。

長所
  • 回復・ダメージカット等、除去以外にも防御手段が豊富
  • 8~9ターン目に安定してバーストダメージを出すことができる
短所
  • 多面除去を担うカードが少なく、盤面負けする恐れがある
  • デッキ構造上、効率よくケアされやすい

8~9ターン目の決着を目指すコントロール色強めの構造は没頭の実験体ウィッチに通じるものがありますが、豊富なダメージカット手段により、終盤の守りがより堅固であるとして、没頭の実験体ウィッチを押しのけるように環境入りを果たしました。
体力の回復についても、瞬間的な回復量で没頭の実験体ウィッチに劣りますが、進化権不要・低コストとより小回りの利く形となっており、相手のリーサル圏内から逃れる力としては申し分ありません。
これら《万物の目撃者・ジュディス》《精錬の用心棒》といった 3枚採用のカードの回復・ドローでゲームを繋ぎながら、終盤の相手のバーストダメージを制する《神器鳴動》《永久の盾・シオン》といった 1枚採用のカードにアクセスを目指すのが防御的な立ち回りの主軸で、8 ターン目の直接召喚が安定する《アルティメットバハムート》により、相手の勝ち筋を奪う流れも噛み合っていると言えるでしょう。

その防御力の代償と見るべきか、攻撃に関しては他のデッキに比べれば少々大人しめで、7  ターン目までにゲームを決められる展開は極めてまれです。
ただし、1 枚採用のカードが多いデッキの作りとは裏腹にバーストダメージの再現度は非常に高く、8~9ターン目には安定して 20点規模のダメージを出すことが可能です。
バーストダメージの中でもとりわけ目を引くものこそ《ジェットパックガンナー》や《サンドボーダー》が担い手となりますが、《機鋒の咎人・カットスロート》《黒錆の下っ端》といった 3枚採用のカードでも十分なバーストダメージを出せることが多く、バーストダメージのパーツを集めるにあたって受け入れ可能なトップドローの合計枚数自体は、他のコンボデッキなどとそう遜色ないと考えられます。

こうした書き方をすると攻守ともに隙が小さいデッキのように思えますが、八獄ネメシスも万能デッキというわけではありません。
主に課題となりやすいのが盤面除去です。
防御の要である《精錬の用心棒》《万物の目撃者・ジュディス》が真価を発揮するのは 6 ターン目以降となるため、それまでに大きく押し込まれてしまえば、巻き返しが間に合わないこともあります。
デッキコンセプト上、多面除去を担うカードをそう多くは採用できないため、いかにして序中盤の相手の攻勢をしのぐかに個性が現れやすいと言えるでしょう。
どこかで処理漏れしてしまうのであれば、体力に余裕があるうちに豊富な回復を頼りに除去カードを温存するようなプレイを挟んでいく等、まさしくコントロールデッキらしいプレイが求められます。

もう 1つの欠点は「エンハンスを活かす」「1枚採用の縛りがある」というデッキの性質に起因するもので、相手からのケア効率に関わってきます。
まず、《機鋒の咎人・カットスロート》の能力を最大限活用するのであれば、進化ターン以降、毎ターンの動き出しはPPを最大限使うエンハンスからとなります。
エンハンス能力を持つカードはある程度限られているので、その分相手に動きを読まれやすいと言えるでしょう。
例えば「6 ターン目を前に盤面を広げることで《精錬の用心棒》の初動を牽制しつつ、《万物の目撃者・ジュディス》や《溶鉄の腹心》といった 7ターン目以降の選択肢を先に引きずり出す」などの定型的なケアも、他のデッキに比べて幾分刺さりやすくなっています。

また、1枚採用のカードが多いことは GRAND FINALS のようなデッキ公開制において、相手の思考に負荷をかけられるのでプラスに働くと考えられがちですが、八獄ネメシスにおける 1枚採用では少し事情が異なります。
通常よくある 1枚採用は「活躍の場面が限られるが、ハマれば強力無比」といったカードのクセによるもので、それゆえに重要な局面で戦況をひっくり返されかねないとしてケアの対象となります。
一方八獄ネメシスの場合、デッキの性質による 1枚採用ですので、必ずしも十分な警戒が必要なカードとは限らず、「基本割り切りつつ、プレイされたらもうないカードとして以後の判断材料にする」といった具合でかえって相手のケア精度を上げかねない場合もあります。
これらケアにまつわるデッキの弱点については、デッキ構築やプレイによる改善が難しいのも特徴で、 GRAND FINALS レベルの読み合いの中で、どの程度影響が出るのかは不透明です。

このようにバランスのいい攻守の基本性能と、気難しいデッキ後続を併せ持つ八獄ネメシスですが、やはり採用カードの種類が豊富な分、デッキのカスタマイズやゲームごとのアドリブに幅が出やすいと言えるでしょう。
トッププレイヤーたちの独創的な構築・プレイが飛び出すかもしれない GRAND FINALSにおいても、やはり目が離せないデッキとなりそうです。

財宝ロイヤル

アディショナルカードの登場以降も依然として高い使用率を誇る財宝ロイヤルですが、環境の変化に合わせ、その姿を変えています。

アディショナルカードの登場以降も依然として高い使用率を誇る財宝ロイヤルですが、環境の変化に合わせ、その姿を変えています。

従来の財宝ロイヤルは《グレートシーフ》や《アルセーヌ・ルパン》といった潜伏フォロワーをダメージソースとして扱うことで、リーサルの難易度を下げていました。
しかし狂乱ヴァンパイアと八獄ネメシスが台頭した今環境では、ランダム除去・全体除去のカードが大幅に増え、潜伏フォロワーへの信頼が大きく揺らいでいる状況です。
そのため、潜伏に頼らないリーサルを目指す必要がありますが、今まで通りのペースで《戦慄の海賊旗》等を回収していては、八獄ネメシスのリーサルターンに足を踏み入れてしまいます。
こうした経緯から、今環境の財宝ロイヤルでは財宝カウントの達成、およびダメージソースの回収をより迅速に行うことを目的に構築の最適化が図られています。
中でも目立つ変化の 1つに《値引き交渉》の起用が挙げられます。僅かとはいえコストの踏み倒しを実現するこのカードにより、「擬似的に 1コストで財宝カードを入手できる」または「コンボパーツのコストを下げ、OTK可能ターンを早める」といったメリットを享受できるようになりました。
単体では一切盤面に干渉しないため、ある程度プレイできるタイミングが限られるなど難しさを伴うカードですが、有効に活用できれば明確にリーサル達成のスピードが変わりえる 1枚で、GRAND FINALS ではその採否も含め、注目したいポイントです。

《値引き交渉》の採用によりデッキから姿を消したカードとしては《千金武装の大参謀》がありますが、こちらも単に優先順位の都合という消極的な理由だけで不採用となったわけではないと考えられます。
多くのプレイヤーが経験済であろう、5ターン目の《マキシマムジェネラル》から《千金武装の大参謀》が現れるパターンは、《荒波の副船長》や《空絶の簒奪・オクトリス》が出る場合と比べ、財宝カウントの推進やダメージソースの確保に失敗している形です。
まさしく前述の「潜伏に頼れないからより重視したい」ポイントを綺麗に外してしまうリスクとなるため、財宝・ダメージソースへのアクセスを上げるという積極的な理由で不採用となっている側面もありそうです。

この他にも狂乱ヴァンパイアとの序盤戦を意識した《戦技斬刀》の採用や、やはり狂乱ヴァンパイアとの戦いに向けた《干絶の飢餓・ギルネリーゼ》の再評価など、デッキ構築の幅はここに来て広がりを見せています。
その意味では各選手の構築にもしっかりと目を向けたいところですが、GRAND FINALS では特に各プレイヤーの状況判断を丁寧に追えると面白いデッキだと考えられます。
というのも、新たに現れた狂乱ヴァンパイア・八獄ネメシスとの戦いではシビアな選択を迫られる場面が少なくないからです。
回復要員でもあった《千金武装の大参謀》の減少は対狂乱ヴァンパイアでの体力管理の難易度を引き上げており、迂闊な回復温存が相手のリーサルに直結しかねない戦いの中で、攻めの姿勢を失わないバランス感覚が求められます。
また、対八獄ネメシスでは《万物の目撃者・ジュディス》のダメージカットや豊富な回復を警戒する必要がありますが、だからといってダメージソースを溜めこみすぎれば、《神器鳴動》や《永久の盾・シオン》の餌食となって、相手に 8~9ターン目を渡すことに繋がりかねません。
このようにいずれのマッチアップでも、財宝ロイヤルにとっては攻め込むタイミングの難しい局面が続きやすく、この 3か月の集大成が問われることとなりそうです。

スペルウィッチ

スペルウィッチもアディショナル環境において、大きく姿を変えたデッキのひとつです。
財宝ロイヤル同様、新しく登場したデッキへの適応という側面もありますが、こちらはアディショナルカードで新たな武器を手に入れたことによる変貌でもあります。

変化の主役は新たなニュートラルスペル《反転する翼》。比較的軽い条件で 0コストでの使用ができるスペルとあって、スペルブーストの効率がいっそう上がりました。
これにより《反転する翼》の対象にできるカード、すなわちフォロワーであれば、スペルブーストに貢献しなくとも採用を検討できる素地が生まれたのがスペルウィッチの現状で、《破式の執行者・シュマエル》確定サーチを実現する《フレイヤ》採用を筆頭に、デッキ構築に一段とバリエーションが出てきました。
《フレイヤ》の他にも《キャットマジック》や《マジカルストラテジー》などの、トークンとしてフォロワーが生成されるスペルも活躍の場を広げています。
こうして早期のスペルブースト対象確保と中盤以降の効率的なスペルブーストが安定しやすくなったことで、そのゲームプランも従来の「回復や盤面ロックで粘りながらパーツを揃える」ものから、「手早く《破式の執行者・シュマエル》を準備して、OTKもしくは盤面勝ちを目指す」という形に先鋭化しています。
もとより手札が整えばあらゆるデッキを相手取れたスペルウィッチですが、手札を整えるカードを採用する余地ができた今環境、GRAND FINALS での爆発力にも期待できるデッキになったと言えるでしょう。

構築変化のベクトルとして、八獄ネメシスを意識して盤面の強さに重きをおいた《ウーシンマスター・クオン》型も存在し、自分の強いアクションを一直線に目指す《フレイヤ》型とはアプローチが異なります。
BO5 において特定のデッキを強く狙う戦略が少なからず有効であることは、過去の RAGE を見ていても感じ取ることができるため、構築をどの形にチューニングするのかといった方向性も、ファイナリストたちの頭を悩ませるかもしれません。

選手・構築・プレイ…目移りするほどの注目ポイント

今回は特に代表的な 4デッキを取りあげましたが、いずれのデッキもミラーマッチ含め、あらゆるマッチアップで考えることが盛りだくさんとなっています。
ここまで見てきた通り各デッキの採用カードの幅も大きく広がっている状況ですので、構築からプレイにいたるまでファイナリストの思考が休まる暇のない過酷な戦いとなりそうです。

いよいよ 2023年3月19日 (日) 12時より、2023年最初の RAGE 王者が決まります。
個々のプレイヤーにフォーカスしても強豪ぞろいとなっている此度の GRAND FINALS を制するのは誰なのか、是非その目で見届けてください。

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