最強チーム決定戦

【オンライン予選大会 プレーオフレポート】RAGE Shadowverse 2020 Autumn

先日行われた大会プレーオフでは、二度の予選を勝ち残ったわずか31名が、8つのファイナリストの席を争って熾烈な戦いを繰り広げました。各プレイヤーの駆け引き・プレイが光ったシーンもさることながら、やはり今大会で特徴的だったのは登場したデッキタイプの多彩さでしょう。オンライン二次予選・プレーオフを合わせると、フィーチャーマッチに登場したものだけで実に12種類ものデッキが活躍を見せてくれました。複数のデッキタイプのハイブリッドなども厳密に1タイプとして数えるのであればこの数はさらに膨らみ、ましてフィーチャーマッチで取り上げることができなかった大会参加者全体で考えれば、これまでのRAGE Shadowverseの中で最も参加者の使用デッキが多岐にわたった大会と言っても過言ではありません。

こうした環境の多様さはファイナリストのデッキ選択にも表れていて、全9種類のデッキが予選大会を勝ち切っています。いつもであれば、2本目の大会レポートではファイナリストのデッキを比較し、採用カードの違いとその狙いについて説明を試みることが多いのですが、これだけデッキ選択に幅があると特定のデッキタイプについて掘り下げることは難しくなります。そこで今回のレポートでは趣向を変え、次のような観点からファイナリストのデッキ・カード選択の特徴を探ってみましょう。

  • 多様環境の大会シーンで、勝ち切るために考えたいデッキの選び方
  • デッキの勝ち筋に応じた多様環境へのアプローチ
  • ファイナリストのデッキから見る具体例

ここからの内容はあくまで「こうした考え方で環境・デッキを分析できないだろうか」という一つの見方の提案であり、プレイヤーの勝率を保証するものでもなければ、ファイナリストの実際のデッキ・カード選択意図を汲み取るものでもありませんので予めご了承ください。「環境に対する考え方の引き出しが増えるかもしれない」くらいの感覚でお付き合いいただければ幸いです。

【「2タテする」より「2タテされない」】
まずは様々なデッキとの対戦が予想される環境の大会で、デッキの選択・構築時に意識したいことを考えてみましょう。BO3での対戦を想定する場合、自分の選択した2つのデッキで相手の特定のデッキを狙い撃つ「2タテ」戦略はしばしば効率がいいとされます。これは狙ったマッチアップで敗れない限り、デッキの出し順に関わらず有利マッチを2度戦うことができるため、相手のデッキのうち片方との相性については考慮する必要がほとんどなくなるからです。
ただし、対戦相手の選択デッキに自分のターゲットとなるデッキタイプが存在しない場合、このメリットは激減してしまいます。したがって2タテ戦略が特に有効なのは少数のデッキが環境を牛耳っており、ターゲットデッキとの対戦機会が多いことを予め期待できる場合となります。

では、デッキの選択肢が豊富にあった今大会では2タテについて全く考慮する必要がなかったのかというと、そんなことはありません。2タテ戦略とは端的には特定のデッキを持つ相手に強い作戦のため、多様環境では勝ち星を重ねるには向かずとも、一部の相手に高勝率を見込める点は変わりません。裏を返せば、トーナメントやスイスドローなど、ほとんど(あるいは1度も)負けを許されない大会フォーマットでは、対戦相手の2タテ編成が直撃するだけで、勝ち切りが非常に困難になるのです。その意味では「2タテされない」意識はデッキタイプの限られた環境でも大切ですが、多様な環境ではBO3における相手として想定しなくてはならない2デッキの組み合わせ自体が加速度的に増えます。デッキパワーや好みなどを根拠に選ばれた2デッキであっても、期せずして特定のデッキに対する2タテ編成となることは決して珍しくありません。そのためデッキの選択肢が多い環境では、2タテされるリスクを検討しなくてはならないマッチアップが非常に多くなります。

このように多様環境での2タテは、「安定して狙うことは難しいため大会を勝ち切る戦略としては有効性を落とすが、マッチアップの豊富さゆえに散発はしやすい」という傾向があり、2タテされるリスクの低いデッキ選択が一層求められると考えられるのではないでしょうか。

【幅広いデッキと渡り合うためのアプローチ】
では、「2タテされない」ことに主眼を置いたデッキ選択・構築を行うにはどのような意識が必要でしょうか。理論上は明確な不利マッチを複数持たない構築ができれば、「2タテされない」にかなり近いと言えるでしょう。しかし、ここでもやはりネックになるのはデッキの多彩さです。当然ですが、主流なデッキが4種類ほどの環境で不利マッチを1つまでに抑えることと、10種類のデッキに対して不利マッチを1つまでに抑えることとでは難易度に大きな差があります。40枚という限られた枠の中で、多様な仮想敵に対して個別に対策カードを採用することはあまり現実的とは言えないためです。

したがって選択肢が多い状況下では、個々のデッキに丁寧に対応するよりも、自デッキの勝ち筋を洗練することに焦点を当てたほうが効率的であることが多いです。とはいえデッキが多いということは、それだけ自身の勝ち筋遂行における障害もバリエーションに富むことを意味するため、「相手デッキによる妨害にどう向き合うか」という文脈から以下のアプローチが浮かび上がってきます。

① そもそも妨害困難な勝ち筋を用意する
② 相手の妨害策を突破できるカード・プレイを準備しておく
③ 妨害された(されることが予想できる)際に、別の勝ち筋に乗り換えられるようにする

想定する勝利ターンが遅いデッキに関しては、自身よりスピード感のあるデッキの足止めも必須となるため、上記に加えて

④ 幅広いデッキに有効な遅延・妨害手段を搭載する

というアプローチも求められることになります。個々のアプローチについて、実際にファイナリストのデッキを参考としつつ、考察を深めていきましょう。

① そもそも妨害困難な勝ち筋を用意する

今予選大会でいえば、秘術ウィッチやアーティファクトネメシス、コントロールヴァンパイアなどのアプローチがこれに当たります。

※すんすん選手の秘術ウィッチ

いずれも『ラブソングシンガー』や『聖なる守り手・ユカリ』など、ごく一部のダメージ無効化能力を持つカード以外では極めて対策困難なフィニッシュ手段を備えているため、環境に合わせたカード採用の必要性が比較的低く、ほとんどのマッチアップで同じ勝ち方を遂行することができます。しかしその高い決定力の代償にというべきか、勝利までにかかる時間は長く、早期決着を狙うデッキにいいようにされないためには、上述の④のような時間を稼ぐアプローチもセットで要求されることが多いです。

その意味で、秘術ウィッチは勝ち筋・遅延策両面において優れたアプローチができるデッキだと言えるでしょう。特に『マナリアの偉大なる研究』の貢献度は高く、『猫耳の魔法使い・キャル』をコピーすれば、体力最大値に干渉する強固な勝ち筋の達成力を上げることができ、『禁約の黒魔術師』をコピーすれば、長時間にわたる高コストパフォーマンスのダメージカットで決着までの時間を捻出することができます。今回見事ファイナリストとなったすんすん選手のデッキでは、『マナリアの偉大なる研究』の採用に加えて『プリンセスナイト』まで起用されており、一層相手の体力を蝕みやすい、決定力を高めた調整と言えるでしょう。

② 相手の妨害策を突破できるカード・プレイを準備しておく

マッチアップによっては勝ち筋を阻害されてしまうデッキでも、妨害のパターンが限られていれば少ないカードで対処・突破が可能なため、採用カードやプレイによって少なからず不利を解消できるケースが存在します。今大会のファイナリストも使用していたエルフ2種類はその最たる例でしょう。リノセウスエルフ・異形エルフともに疾走フォロワーを起点としたバーストダメージを勝ち筋に据えるデッキです。こうした勝ち筋への対策は「守護複数の同時展開」や「ダメージカット」など、もとよりある程度限られているため、「相手の守護を剥がす手段」や「ダメージカットを無効化する手段」「ダメージを分割して相手の体力を削るプレイ」といった解答を事前に用意しておくことで、相手の対策を有効に機能させない形での勝利が可能です。①に比べれば「勝ち筋をサポートするカード」が増える分デッキが嵩張りますが、他のデッキに比べて早期決着を狙いやすいという点は代えがたい魅力と言えるでしょう。

※のん|DRS 選手の異形エルフ

広く浸透している異形エルフとは毛色の異なるデッキを使いこなし、今大会ファイナリストとなったのは、のん|DRS 選手です。異形エルフはもともと守護フォロワーの複数展開に対しては、『フォレストダーク・レオネル』を筆頭に性能の高い除去カードを構えることで突破を狙うことができましたが、ダメージカットに対してはそこまで有効なリアクションを取ることができませんでした。特に、使用者の多い秘術ウィッチとのマッチアップで『禁約の黒魔術師』は避けて通れない障害であるため、平均的なフィニッシュターンを後ろにずらしてでも『堕落の決意』による解答を可能にしている点は、のん|DRS 選手の構築の特徴と言って差し支えないでしょう。7ターン目に決着を見込んでくる魔道具専門店ウィッチの減少に加え、能力調整によって取り回しが向上した『回帰する抱擁・ラティカ』の採用で、ネクロマンサーの中盤の猛攻にある程度向き合いやすくなったため、最速6ターンでの決着を目指す必要性が薄れたという環境の推移を背景に、より自分の勝ち筋を補助する方向に舵を切った構築となっています。


※Shimon選手のリノセウスエルフ

『フォレストダーク・レオネル』や『堕落の決意』といった同様の「対策への対策」は、2度目のファイナリストに輝いたShimon選手のリノセウスエルフにも垣間見ることができます。『癒しの波動』によって進化回数を稼ぎやすいため、『堕落の決意』は『結晶:禁約の黒魔術師』への対処に限らず、守護の突破や大型フォロワーの処理でも活躍を見せてくれ、やはり「疾走フォロワーによるバーストダメージ」を通すためのアシストが随所にちりばめられているとの見方ができます。また、かつてのコントロールエルフの系譜を継ぐ豊富な回復カード採用はもちろん『豪風のリノセウス』のプレイ回数を重ねるための時間を稼ぐ役割を担っています。異形エルフと勝ち筋の系統が同じであっても、その達成速度の違いからこういったアプローチの違いが顕著に表れるのも、様々なスピード感のデッキが混在する環境ならではの面白さと言えるかもしれません。

③ 妨害された(されることが予想できる)際に、別の勝ち筋に乗り換えられるようにする

「ダメージに対して回復」「盤面形成に対して除去」「アミュレットに対して破壊」などのリアクション型の妨害は、プレイした時点で効果を発揮するため、②のケースと異なり無力化が困難です。そこで相手の妨害策を乗り越えるのではなく、迂回するのがこちらのアプローチと言えます。今大会では『《吊るされた男》・ローフラッド』擁する異形エルフの他では、ネクロマンサー系統のデッキが好例でしょうか。

※fee選手の葬送ハデスネクロマンサー

葬送ネクロマンサー、ハデスネクロマンサーはそれぞれ「ゲーム中盤の圧倒的な盤面アドバンテージ」「『冥府への道』による盤面除去と継続ダメージ」という手堅い勝ち筋を持っていますが、いずれも「強力な全体除去」「アミュレット破壊」という明快かつ現実的な対抗手段がある程度存在するため、①で取り上げた対策困難な勝ち筋とまでは言えません。また、盤面や『冥府への道』を破壊する相手の動きを止める手立ても特段存在せず、②のアプローチにも向いてはいません。しかし、葬送ギミックが「墓場の増加」「各種フォロワーの直接召喚条件」の双方と高い親和性を持つため、「盤面に対応されたら『冥府への道』」「『冥府への道』に対応できるデッキには盤面で勝負を仕掛ける」といった具合に、相手の対策が及びにくい勝ち筋への切り替えが可能という特徴があります。フィーチャーマッチでもその特徴的なデッキやプレイを見せてくれたファイナリストfee選手のデッキリストは、相手の動きや手札の状況に合わせて縦横無尽にプランを切り替えられるよう幅広いカードが起用されており、まさにこのアプローチを突き詰めた調整となっています。40枚という枠の中で複数の勝ち筋を生み出す必要があるため、採用カードの取捨選択やプレイの制限などは非常に厳しくなりますが、これも相手に依らず高い決定力を維持するデッキの在り方の一つと言えるでしょう。

④ 幅広いデッキに有効な遅延・妨害手段を搭載する

環境次第では相手の攻め手をいなし続けることで、手札やEPなどのリソースで差をつけて勝利することもできますが、今環境の多彩なデッキ達は恐ろしいことに、そのほとんどが豊富なドローソースを備えており、そう簡単にはリソース難に陥りません。したがって守るだけのアプローチは勝利には直結しないのですが、様々な勝利プランにはそれぞれ目安となる達成ターンが存在するため、遅いデッキが自分の勝ち筋ばかりに目を向けていては、勝利ターンの早いデッキとのマッチアップは絶望的です。そこで、勝利まで時間のかかるコントロール系統のデッキタイプでは、相手の勝利ターンを自分よりも後ろに引きずり込むための対策を満載することが一般的です。

ただし繰り返しとなりますが、今シーズンのようにデッキの豊富な環境では、特定の仮想敵に寄せたカード採用をするだけでは取りこぼしてしまうマッチアップが多いという懸念がぬぐえません。そのため「相手の動きに対策する」というアプローチでありながら死角の少ない構築を実現するには、幅広いデッキに共通して有効な策を中心にまとめることが求められます。今環境に限ったことではありませんが、ほとんどのデッキは「合計20点分のダメージをリーダーに与えて勝利する」という点において共通した勝ち筋を持つため、ダメージに直接干渉できる手段である回復・ダメージカットであれば比較的幅広いデッキに対応できると考えられます。今大会では回復に秀でたデッキとしてリノセウスエルフ・コントロールヴァンパイア・アーティファクトネメシスが、ダメージカットに秀でたデッキとして秘術ウィッチ・コントロールヴァンパイアが例に挙がるでしょう。

※あられ選手のコントロールヴァンパイア

<特に回復・ダメージカットの双方に秀でたデッキであるコントロールヴァンパイアは、相手のスムーズな勝利を許しません。今大会ファイナリストのあられ選手のデッキリストはフォロワーの横展開への対策として『燃え盛る抵抗』、アミュレットや大型フォロワーへの対策として『堕落の決意』が採用されているためさらに多彩な妨害が可能であり、メタカードの徳用パックといった様相を呈しています。体力最大値に直接干渉する秘術ウィッチや、ダメージカットをかいくぐって20点ダメージを達成する魔道具専門店ウィッチに対してこそ時間稼ぎが非常に困難ですが、BO3の性質上1試合でこの2デッキと当たることはありません。ウィッチ以外のデッキに対して死角を作らないように調整されているのがこちらのデッキリストであり、裏を返せば、これほどまでに潤沢な対策を40枚の中に凝縮しなければ「2タテされるリスクを十分に抑えたコントロールデッキ」を完成しえないのが現在の環境と言うことができます。

さて、ここまで見てきた内容をおおまかにまとめると次のようになります。

  • 多様用のある環境で短期的な勝率を求める場合、「2タテされる」リスクを警戒しなくてはならない
  • 多様環境で「2タテ」リスクを減らすには、相手のデッキより自デッキの勝ち筋を洗練するほうが効率的になりやすい
  • 自デッキの勝ち筋を洗練するアプローチは大きく分けて以下の3パターン

①初めから対応困難な勝ち筋を用意する
②自身の勝ち筋に対する相手の対策を突破・無効化する手段を考える
③相手の対策に応じて切り替え可能な複数の勝ち筋を用意する

  • 加えて、ゲームスピードの遅いデッキは相手の足を止めるため、回復・ダメージカットといった汎用性の高い遅延策を講じる必要がある

 

いつものレポートとはいささか異なる内容となりましたが、いかがでしたでしょうか。今回ご紹介したのはあくまで負けがほとんど許されない大会シーンでの考え方の一例にすぎません。瞬間的な連勝ではなく中長期的な勝率を求める場合、多様な環境であってもやはり2タテを狙う戦略は魅力的ですし、今回触れられなかったデッキに関しても、上述のアプローチを取ることが可能なデッキばかりなので、今後のアディショナルカードの実装も踏まえると、まだまだ煮詰まった環境と言うには早いのかもしれません。それだけ流動性があり、複雑な今環境において素晴らしい構築・プレイを見せてくれた8名のファイナリストによるGRAND FINALSは9月6日(日) 12時から放送開始です。是非楽しみにお待ちください。

【文:まる】

RAGE Shadowverse 2020 Autumn GRAND FINALS

  • 日時:9月6日(日) 12時〜
  • 配信プラットフォーム:OPENREC・ABEMA・YouTube・Periscope

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